還暦を過ぎたというのにいまだに少年の心を持ち続けているオジサンと半日近くも街中を歩き回っていたら不思議なことにこちらまで何となく少年の気持ちになってしまった。そんなわけで、冒険心に満ちた中高年の少年二人は、まったく未開拓のちょっと怪しげなディープな店で何か食べようということになったのである。


片町の大通りから一本入った雑居ビルの中に足を踏み入れたら、無機質な鉄のドアだけの店を発見。看板には「食道 天」とある。中の様子は伺い知る余地もないのだが、冒険するにはこれ以上の店は恐らく見つからないだろう。そう思って覚悟を決めた少年はドキドキしながら重たいドアを開けたのであった。

愛想の良い老夫婦が笑顔で迎え入れてくれたので少年はほっと胸をなでおろした。狭い店内の壁には達筆で書かれたメニューが所狭しと貼られている。聞けば奥さんは書道二段の腕前だそうだ。名刺までもが奥さんの手書きだった。

そうこうするうちに常連さんらしき客が続々と入店してきた。客の多くが握りずしを注文していたところを見ると、店主は恐らく寿司屋出身なのだろう。どうりで刺身が美味しかったわけだ。

 

ゴロ焼き。スルメイカの内臓を焼いたものをゴロ焼きというらしい。珍味だ。

 

メニューにたこ焼きとあるが、自分で作ってるわけはないと思って聞いたら自分で作ってない料理は一つもないという。なるほど、創作の自家製たこ焼きだった。新たな出会いを感じた日だった。次回は是非握りずしを食べたい。